ボブ・ディラン「マイ・バック・ペイジズ」


大好きなミュージシャンのルーツをたどっていくと、
必ずいきつくアーティストが何人かいる。
僕にとってボブ・ディランは、その代表格である。

19921016日、
ニューヨークはマジソン・スクエアガーデンで
ボブ・ディランのデビュー
30周年を記念する一夜限りの特別イベントが行われた。
このコンサートは、まさにオールスターキャストと呼ぶにふさわしい
豪華ゲストが集い、それぞれがディランのナンバーを披露した。

僕はこの模様をテレビで観たのだが、
ジョージ・ハリソンが出てきたので、歓喜したものだ。
そのジョージの紹介によりステージに登場したディランは、
お世辞にもカッコいいとはいえないタキシード姿で、
おまけに仏頂面をしていた。

自分のデビュー
30周年を記念しての、
栄えあるステージに仏頂面とは
!? 
ディランは機嫌が悪いのだろうか?と思ったのだが、
ニコニコしてステージに出てくるよりもディランらしいなと納得した次第である。


このコンサートのハイライトはなんといっても、
ロジャー・マッギン→トム・ペティ→二―ル・ヤング
→エリック・クラプトン→ボブ・ディラン→ジョージ・ハリソンという
超豪華ヴォーカルリレーで演奏された『マイ・バック・ペイジズ』である。
I was so much older then,I’m younger than that now
(あの頃の僕は年老いていて、いまのほうがだんぜん若い)
というフレーズが印象的な名曲だ。

この言葉、実にいい。
辛かった過去を思い出すたびに、僕はこの言葉を思い出す。
辛い経験はもうしたくはしないが、
「いまのほうがだんぜん若い」と思える人生を重ねたいものだ。


コンサートの翌年、
この日の模様を収めた
2枚組のCDが発売され、
僕もさっそく購入した。
コンサート当日は投げやりな声で
ボソボソと歌っていたディランのヴォーカルが、
力強い歌声に差し替えられていてビックリしたのだが、
もっとビックリしたのは歌詞カードのなかに
ニール・ヤングとうれしそうに談笑している
ディランの写真が掲載されていたことだ。

ディランの笑顔を見たのは、
ひょっとしたらこのときがはじめてだったかもしれない。
ディランといえば、
マジソン・スクエアガーデンでも見せていたような、
難しそうな表情をしているところしか印象しかない。

屈託のないその笑顔を見て、
ディランも人間なんだなとあたたかな気分になったことを憶えている。


今年、ディランの通算
44枚目となるアルバム“モダン・タイムス”が、
実に
30年ぶりにビルボードNo.1を獲得した。
しかも、自身初となる初登場
No.1である。
この知らせを受けたとき、ひょっとしたらディランも
この
30年間をふり返り「いまのほうがだんぜん若いぜ」と思ったかもしれない。

そして仲間たちの前で、喜びの笑顔を見せたに違いない。

 

2006.12