アン・ルイス「あゝ無情


今日はエンケンのチケット発売日である。
「またエンケン?
あんたも好きねぇ」という声が聞こえてきそうだが、
カンベンしておくんなせえ。
714()、吉祥寺の“STAR PINE’S CAFE”で行われる
ライブのチケット発売日なのである。

714日の前日、
13日をもって僕はいま勤めている会社を退職する。
脱サラリーマンの初日にエンケンのライブとは
!!
なんとも幸先のいい新たなるスタートが切れそうだと、
ノーテンキに考えている次第である。

吉祥寺の“STAR PINE’S CAFE”は一度も行ったことがない。
そういや吉祥寺に最後に行ったのは約
1年前だった。
後輩のスズキくんがまだ入社
2日目か3日目ぐらいだったと思う。

その頃、僕はとある美容室チェーンのブランディングの仕事をしていた。
その美容室チェーンは三多摩地区を中心に
3つのブランドで店舗展開をしていたのだが、
店舗ごとのブランドカラーが不明瞭になってきて、
顧客の取り合いというか食いつぶし合いになっていたため、
各店舗の新たなるブランドカラーを確立してほしいという依頼であった。

そのためにはまず店舗を見ないことには話にならないと、
本部のご担当者にお願いして
ブランドごとに参考になる店舗をピックアップしていただいた。
そして、その店舗をスズキくんとまわった。
そのなかに吉祥寺のお店があったのだ。

その前日、というかその日の朝まで、
僕は友人と飲んでいた。
2時間ぐらい仮眠をとり出社したのだが、
完全な二日酔い状態だった。
朝イチから四谷三丁目で打ち合わせがあったので、
僕は出社してすぐ会社を出た。
体はものすごく重かった。
さらに蒸し蒸しとした天気だった。

重い体を無理くり動かし、四谷三丁目に着いた。
そして渡されたメモの番地を頼りに、
打ち合わせ場所へと向かった。
僕はけっこう土地勘がいいので、
だいたい番地さえわかれば迷うことはない。
が、しかし、この日は違った。
探せど探せど、その場所が見つからないのである。

時間に余裕をもって会社を出たのだが、
約束の時間は刻々と近づいてくる。
僕は焦り、汗だくになりながらその場所を探した。
渡されたメモには、電話番号も書いてなかったのである。

なんとかその場所を探し、無事に打ち合わせを終え、
僕はスズキくんと待ち合わせのため新宿駅へと向かった。
スズキくんを待っている間、
僕は京王百貨店の屋上でタバコを吸いながらポカリスェットを飲んだ。

二日酔い+汗だくになり乾き切った体内に、
まさに浸みこんでいくような美味しさだった。

スズキくんと新宿駅で落ち合い、
僕らは京王線に乗って府中→調布→千歳烏山と回り、
最後に吉祥寺へと移動した。
時刻はすでに
5時近くだった。

とにかく暑い一日だったので、僕もスズキくんもヘロヘロだった。
取材先に向かう途中に、老舗やきとり屋の“いせや”があった。
僕はここには一度も入ったことがなかった。
蒸し暑い
6月、カラカラのノド、夕刻、そして僕はビール好き。
目の前にに、あの“いせや”である。
僕がスズキくんを飲みに誘うには条件が揃いすぎていた。

しかし結局、僕らが取材を終えノドを潤したのは、
吉祥寺駅近くのマクドナルドであった。
僕らは
2人でコーラを飲んだ。
そして会社に帰って、また仕事をした。

この時点ではまだ1年後に退社するとなど全然考えてなかった。
スズキくんはかわいい後輩で、
一緒にしながらたくさんのことを教えてあげたいと、
むしろ希望に燃えていたといってもいい。

僕が最初に会社を辞めようと考え出したのは、
この
1ヵ月後のことである。
原因は、このブランディングの仕事だった。

この仕事はコンペだったため受注するためには
外部のマーケターの力が必要と考え、
僕は社長に了解をとった上で、
友人のマーケターに協力を依頼した。

予算は当初、僕が考えていた予算より
20万円低い金額で承諾してくれた。
そしてコンペに通り、受注することができた。
僕は協力してくれた友人に心から感謝した。

問題はその後だった。
何がどうなってそうなったのかは知らないが、
僕の友人に対して会社が支払いを渋りだしたのである。
友人はフリーランスではない。
ちゃんと企業に属している。
企業対企業の取り引きなのだ。
当然、会社の信用問題にも関わってくるが、
それ以上に僕個人の信用にもこの一件は深刻な影を落とした。
これが原因で、僕は友人であり有能なブレーンを
1人失った。

ここから少しずつ、僕は会社に対して不信感を募らせていった。

ちょうどこの時期、話題を集めていたドラマが
米倉涼子、松下由樹、石黒賢による“不信のとき”である。
この番組の主題歌はアン・ルイスの『
あゝ無情』であった。

あれからもうすぐ1年。
ホントにあっという間の
1年間だった。


2007.06