天地真理「恋する夏の日


昨日、学童保育の先生をしている友人から写真が届いた。
海だか湖だかを望む高台で児童たちと撮った集合写真である。
子どもたちはやんちゃな表情をしている子もいれば、
疲れた表情を見せている子どももいた。

学童保育に通う子どもたちは、
両親が共働きなどのため日中や放課後を施設で過ごす。
そのためこの時期、
僕の友人は朝から晩まで子どもたちの面倒を見ることになる。
なかなかできることではない。
他人の子どもを預かって、
なおかつその子どもの成長過程に少なからず影響を与える立場なのだ。
責任も重大だし、
子どもたちと一緒に過ごすための気力も体力もいる。
本当に大変な仕事だと思う。

僕の友人が受け持っている児童のなかには、
問題を抱えている子も少なくないという。
他者とうまくコミュニケーションがとれない子もいれば、
明らかに虐待を受けているであろう子もいるそうだ。

誰もが思い当たると思うが、
子どものころに受けた心の傷というのは
大人になってからもかなり引きずる。
人格形成への影響も大だと思う。

以前スザンヌ・ヴェガの名曲『ルカ』に寄せてチラリと書いたが、
大人たちによってつらい思いや悲しい思いをする子どもたちが
一人でも少なくなればいいなとあらため昨日、
友人から送られてきた写真を見て思った。

逆に子どものころの楽しい想い出というのは、
大人になっても色あせない。
先日、滋賀の大叔母のことを書いたが、
小学
4年生のときにこの大叔母のところへ遊びにいったときのことは
この歳になっても鮮明に記憶している。

大叔母の家は、織田信長が建立した安土城址のすぐ麓にあった。
当時の僕は戦国時代大好きの歴史少年で、
なかでも織田信長は最大のヒーローだった。
25千の今川義元の軍勢を
わずか
2千の兵力で打ち破った桶狭間の戦いの話は、
仮面ライダーよりもウルトラマンよりも僕を夢中にさせた。

ある朝、大叔母に連れられて僕はこの安土城址の頂上まで登った。
かつて織田信長がここにいた。
そして、その場にいま立っている。
その感激に胸が高鳴りっぱなしだったことをいまもまざまざと憶えている。

安土城址をひと通り見物したあと、
僕は汗だくになって大叔母の家へと戻った。
そして、ソーラーシステムにより沸かされていた
熱いお風呂に入って汗を流した。

ソーラーシステムを知ったのもこのときが初めてであった。
まだ午前中だというのに、こんなにお湯が熱くなるなんて、
と僕はすごいものを発見したような気分になったものだ。

海水浴を経験したのも、このときが生まれて初めてであった。
厳密にいえば琵琶湖で泳いだので海水浴ではないのだが、
プールでしか泳いだことのない僕にとって、
はるか彼方まで広がる琵琶湖はまさに海のように見えた。
しかも、琵琶湖は湖なだけに波もほとんどない。
波が怖い僕も安心して、泳ぎを満喫できたというワケである
()

琵琶湖を一周したり、比叡山に登ったり、忍者屋敷に行ったり、
この旅は僕にとってすべてが初めてで、すべてが楽しい経験ばかりだった。


ある瞬間、僕は眼前に広がる広大な琵琶湖を見ながら、
天地真理の歌を思い浮かべていた。
『恋する夏の日』である。
この曲の「今年の夏忘れない」
(作詞・山上路夫)という一節が浮かんできたのである。


小学校
4年生。
恋する夏の日なんてものにはまだまだ無縁の少年であったが、
あの夏に体験したことすべてがエヴァーグリーンなものである。


多くの子どもたちにとってこの夏が、
そんな素敵な夏になればいいなと心からそう思う。

2007.08