アルフィー「星空のディスタンス」


つい先日、遅ればせながら“イズ・エー”という映画をDVDで観た。
2003年の作品である。
“イズ・エー”のエーは
Aのことで、少年Aのことを指す。

ストーリーはこうだ。
渋谷で爆破事件が発生、大量の死者を出した。
「ホーリーナイト」と名乗る犯人は多くのメディアでとり上げられ、
一部のカリスマ的存在となる。
捕まったのは
14歳の少年だった。
この少年を小栗旬が演じ、父親を内藤剛志、
そしてこの爆破事件によって子どもを失った刑事を津田寛治が演じている。

僕は恥ずかしながら、この映画をつい最近まで知らなかった。
たまたま友人と津田寛治の話をしていたところ勧められ、観てみたのだ。

津田寛治は大好きな役者である。
はじめて観たのは映画“壬生義士伝”であった。
この映画で津田寛治は大久保利通を演じたのだが、
わずかワンシーンながら強烈なインパクトを残した。
以来、ずっと気になる役者となっている。

“イズ・エー”のなかで津田寛治は、
犯人が少年法によりわずか
4年で出所し社会復帰を果たしたことに憤りを覚えながら、
ある種の疑惑をもって犯人のその後を追う。
内藤剛志演じる父親は教師を辞め、
最愛の息子の更生を信じながら清掃会社でひっそり働いている。

被害者の父、加害者の父、
この
2人の父と小栗旬演じる少年を軸にストーリーは進んでいく。

この映画のことを友人に教えてもらった際、
山辰アニキこと山田辰夫も出ていることを知り、
僕はますますこの映画に興味がわいた。
山辰アニキは僕が
10代の頃から注目していた俳優なのだ。

“イズ・エー”において山辰アニキは
少年の保護司という役柄で出演している。
わずか
2つのシーンだけであったが、
山辰アニキは相変わらずその存在感を光らせていた。

さらに、この映画で気になる演技を魅せていたのが、
津田寛治の先輩刑事役を演じていた斎藤歩。
僕は「この顔どっかで見たことあるなあ、誰だっけ
?
それにしてもこの役者はいい役者だなあ」なんてことを考えながら観ていた。

謎が解けたのは観終わってからである。
前述の“壬生義士伝”において
新撰組参謀・伊東甲子太郎を演じていた役者であることに気がついたのだ。
“壬生義士伝”に比べ、斎藤歩の演技は数段良かった。
存在感も抜群であった。
今後の活躍に期待したい俳優である。

また“イズ・エー”において、僕は小栗旬の演技というのを、
はじめてちゃんと観た。
本当に素晴らしい演技で、彼がいま人気を集めているのも納得できた。
ただのアイドルタレントとは一線を画す何かを、彼の演技から感じたのだ。

その小栗旬演じる息子を愛し、信じ、見つめ続ける父親を演じた内藤剛志の演技は、
まさに賞賛に値するものだった。
痛々しいまでの父親の愛を、見事に表現しきっていた。

僕が内藤剛志を知ったのは、高校3年生の冬。
TBSドラマ“無邪気な関係”においてであった。
大学受験生役の鶴見辰吾がよく出入りする喫茶店もどきのお店の店員役であった。
このドラマには佐藤慶さんや古尾谷雅人、原田美枝子に石原真理子、
そして戸川純などが出ていた。
三上博史もこのドラマで鮮烈にブラウン管デビューを果たした。
そんななかで、内藤剛志演じる大作はレギュラーながら、
まだまだ脇役でしかなかった。
その後、記憶にはずっと残っていたものの特に気になる俳優ではなかった。

そんな内藤剛志が主役クラスの俳優として、
さまざまな番組に出てきたとき、正直いって驚いたものだ。
「へえ、あの内藤剛志が
!?」ってなもんだった。

“無邪気な関係”は、もう一度観たいドラマの1つである。
主題歌はアルフィーの『星空のディスタンス』であった。
番組のオープニング、
この曲をバックに新宿から中野方面に向かう中央線の社内から撮ったであろう
新宿の高層ビル外が映し出されていた。
後に僕は中央線のなかからこの景色を見る度に、
“無邪気な関係”と自分自身も受験生であった
1984年の冬を想い出したものだ。

高校卒業後、両親と折り合いが悪かったこともあってそのまま家を出、
中野のオンボロアパートで一人
暮らしを始めた。
僕は父親が特に大嫌いで、とにかく
1日も早く離れたかったのだ。

以前にも書いたが、
僕はささいなことで父親に「殺すぞ」といわれ殴られたことがある。
それはいまも大きな心の傷となっている。
しかし、父親とのいい想い出がないわけではない。
僕が小学生の頃は毎日、出勤前にキャッチボールをしてくれた。
僕が中学生の頃、こっそり仕事を途中で抜け出してサッカーの試合を観に来てくれた。
そのことを僕は、ずっとあとで知った。
僕が一人
暮らしを始めた日、
父は母にずっと僕のことを「大丈夫かな、大丈夫かな」と語っていたという。

父は父なりに、僕のことを愛していたと思う。
いまは素直にそう思える。

“イズ・エー”において再び罪を犯した息子に対し、
内藤剛志がとった行動を観ながら、
僕は父親になることと父親であることについて深く考えさせられた。


2007.12