アル・ヤンコビック「今夜もイート・イット」


「○○風」・・・先週、クライアントのご担当者からこんな話を聞いた。

最近の傾向として、「○○風でOK」という風潮があるという。
これは、たとえばプロとして芸能人やモデルを目指すのではなく、
芸能人の○○さん風に、モデルの○○さん風になることで満足することらしい。

プロのモデルになるには相当な苦労が必要だ。
身体的な資質はもちろんだが、
それ以上にダイエットもしなきゃならないし、
エステにも通わなきゃならない。
日々の節制も欠かせない。

だが、そこまではしたくないし、めんどくさい。
だから「○○風」で、
○○の気分だけ味わうことで自己満足を得るというのだ。

その話を聞いて、僕はなるほどなと思った。

90年代に「ファジー」という言葉が流行った。
“あいまいな”というニュアンスで人間関係から、
それこそ電化製品にまで使われた言葉だったのだが、
僕はどうもその言葉のどっちつかず感に違和感を覚えたものだ。

そして21世紀に入り、例の「ちょい○○」である。
この言葉の、ちょこっとだけかじってます感も好きになれない。
ワルなら本物のワルになれよと思う。

突き詰めてこそ、本物なのだ。
そんな「ちょい○○」とか「○○風」で自己満足にひたっているヤツは、
永遠に本物になんかなれない。
そして贋物はいつかはバレる。

その一方で、贋物でも突き詰めると本物になるということがある。

そんなアーティストが
1980年代に大活躍したアル・ヤンコビックである。
たぶんアル・ヤンコビックを知っている多くの人たちもそうだと思うが、
僕が彼を知ったのはマイケル・ジャクソンの大ヒット曲
『今夜はビート・イット』をパロった『今夜もイート・イット』である。
マイケルのプロモをパクったビデオをはじめて観たときは大笑いしたものだ。

アル・ヤンコビックはほかにもマドンナの
『ライク・ア・ヴァージン』をパロった『ライク・ア・サージャン』や
クイーンの『地獄へ道づれ』をパロった『遅刻へ道づれ』、
映画“ロッキーV”の主題歌、サバイバーの『アイ・オブ・ザ・タイガー』をパロった
『ライ・オア・ザ・カイザー』など、
タイトルからして笑える曲がたくさんある。

僕がアル・ヤンコビックの曲に大笑いしていた当時、
彼はメガネにチョビ髭、そしてアフロヘアという、
いかにも「笑わせまっせ〜」というキャラのルックスをしていたのだが、
Wikipediaによると1998年に視力回復手術を受けたのを契機に、
そのルックスとおさらばしたそうだ。

ら、意外とハンサムだったのである。

「ちょいダサ風」の男を演じていたなかなかのハンサム野郎、
アル・ヤンコビック。
なかなかあなどれない小粋な男である。


2007.06